2012年8月26日日曜日

アメリカの精神分析 1(古代~近世)

今回の同時多発テロに限らず、アメリカは「自由を守る戦い」「民主主義のための戦い」という言い方をよくします。実態としては、アメリカ一国に対する問題であっても、反米の構図よりも、まず「(近代的自由に基づく)善」と「(反近代的な)悪」という構図を作り、アメリカは「善」の守護者であるという言い方をします。

 では、自らの立場が絶対的な正義であり、自らに対立する存在が悪であり、あらゆる行動を正当化する論理の起源はどこから生まれてのでしょうか?
 また、なぜ「自由」や「民主主義」の題目を唱え続けなければならないのでしょうか?

◆◆◆階級闘争論は近代の外観を持つ旧約聖書

 西欧から世界中に影響を与えた思想にマルクスの階級闘争論があります。資本家が労働者を搾取する世界は、やがて労働者によって革命されるという理屈です。

 しかし、階級闘争論から生産手段といった概念、資本蓄積の構造といった経済学的な外観を取り除き、その思想のエッセンスを見れば、ようするに、抑圧された被支配者が、なんらかの時代的必然性によって、支配階級をうち破り、自らの理想世界が誕生する、それが歴史というものだ、という話です。

 よく見れば、これは、ユダヤ人の聖典である旧約聖書のストーリーと相似です。ユダヤ人の古代史に、ローマなどの支配国家が資本家へ、ユダヤ人が労働者へという風に、より近代的・普遍的な支配--被支配の構造の外観を取り付けたものが、いわゆる階級闘争の論理です。

 そして、恵まれなかった自らが、他者を打ち倒すための根拠として、一神教が発達し、それをバックボーンにアイデンティティが形成されていくことになります。

 このような他者に対する民族的ルサンチマン(抑鬱された恨みの感情)は、しかし、ユダヤ人に限らない、と思います。

◆◆◆ヨーロッパ人のルサンチマン

 ヨーロッパ人は、自らをギリシャ、ローマといったかつての文明の後継者を名乗りますが、実際は違います。現在ヨーロッパと呼んでいる地域の国々は、原野で放牧や狩猟を営んでいた人々、ローマが「野蛮人」と呼んだ民族が作ったものです。ヨーロッパ人が、グレコ・ローマン的教養に触れたのは、中世の終わり頃に、イスラム人が著したアリストテレスなど古代の哲学者の研究書・解説書をイスラム文化を通じて知ったのが最初です。

 イスラム圏という自分達よりも優れた文明があることを知ったヨーロッパ人は、これを否定にかかります。
 つまり、この動きの一つが十字軍によるイスラム都市の破壊・略奪であり、アレキサンドリアなど非ヨーロッパ圏の思想を受けた異端への弾圧です。そして、大急ぎで自らの思想を広めることに着手します。これが非ヨーロッパ圏へのキリスト教の大布教運動であり、他民族の文化破壊です。

 そして、先ほど述べたように、古代文明の後継者として、ヨーロッパを世界の中心と見なす、歴史観の捏造を行います。

 もともと貧しい国土と寒冷な気候の上で、生産力に恵まれず、高度な文明も持てなかったヨーロッパ人のルサンチマンは、他民族からの収奪、他文化の否定という形で優越感へ反転、爆発したのです。

阪本剛

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