2012年8月19日日曜日

アメリカから読んだリクルート事件の深層③

引き続きマヨの本音よりhttp://blog.goo.ne.jp/palinokuni/e/22566faf275865c52c2caea94c93b3f7転載します。
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   株と秘書名義を使った中曽根流の錬金術

 より意味深長な記述は第四章の「祭りのあと」の」「中曽根の取り分五億円の処置」に書かれている。一四四頁から一四五頁にかけての記述は「十月五日、野村証券から中曽根割り当て分百万株の売却代金が、何の連絡もなく突然、榎本の口座に振り込まれてきた。このやり方は私も首をかしげざるをえなかった(中略)早速、私は中曽根の所に行き、金額の詳しい説明をすると同時に、中曽根に渡せる分(五億円)をどのようにしたらいいのかの指示を仰いだ。『今すぐ必要な金ではないから、君の所でもう少し預っておいてくれないか』この中曽根の返事には私は少々腹が立った。彼が拝むようにして頼んできたので私としても非常に無理を重ねて、やっとここまで漕ぎ着けたというのに、いざ金ができると、このようなそっけない返事である。あまりにも身勝手すぎる話ではないか。『とんでもない。君の金を僕のほうで預かるなどというのはとうていできない』そう言って、私はきっぱりと拒絶した。『そうか。だったら上和田の名で預金しておいてくれないだろうか』上和田というのは中曽根の秘書の名前である」とあり、ここには秘書の名前を使った中曽根流裏金作りと、それまで金にガツガツしていた中曽根が五億円に大喜びしない状況が描かれている。しかし、その翌朝の十月六日には三井銀行銀座支店において、上和田秘書官と日本学術会議事務局長の名義を使った口座が開設され中曽根の政治資金としての五億円は預け入れられるのである。
 この殖産住宅事件と今回のリクルート事件を、青年時代の一時期にフランスに滞在して、レヴィ・ストロース流の神話の構造分析や、ジャック・ラカン流の深層心理の構造解析の洗礼を受けた構造主義者としての私が眺めるならば、状況の背後に潜んでいる基本構造を、疑獄のモデルとして抽出が可能になる。
 東郷民安が五億円を中曽根に渡す以前に、中曽根はその金額をはるかに上回るだけのものを入手済みであり、それは日本のジャーナリズムや検察当局が追求し得なかったロッキード事件にまつわる対潜哨戒機P3Cがらみの収賄であることは、ほぼ確実であると言えるのではないか。二匹目のドジョユを狙ったたけに中曽根は殖産住宅のやり口を繰り返し、構造疑惑の一端を氷山の一角として露呈したようである。
 公判維持のためにはまず物的証拠が必要だ、という先入観に支配された検察当局や事件記者たちは物的証拠という捕物帳レベルの伝統思考のまわりで右往左往しているだけである。しかし、現代における知能犯罪のやり口や国家権力を総動員して役人を手駒のように使う政治業者たちの悪行を、状況証拠の蓄積を突破口にして一掃するだけの気概と勇気を持ち合わせないなら、社会の道義心の低下が経済力を根底から損なう結果をもたらすことを教えている。
 かって伊藤検事総長が「巨悪は眠らせない」という名言でマスコミの拍手喝さいを受けた時に、発言の狙いが中曽根にあると噂されたが、腰の座らない検察当局に対して警察官僚は密かに嘲笑の声を漏らしたと伝えられている。
 検察官たちが検事総長の遺言を看過し「秋霜烈日」ということばを戯れに愛しょうし続けるなら日本列島に生きていく次の世代の多くは、正義とはいったい何を意味するものかについて、まったく理解できない人間になり果ててしまうと思わざるをえないのである。

  倒錯精神の危険

 専制政治というものは全体主義であり、帝国主義、民主主義、社会主義、そして自由主義という好みの名前で幾ら自分を飾りたてようと差異はなく、権力者による専横が続いている限りは基本構造を支配する腐敗体質が政治体制を特徴づけることになる。
 特に日本のように一党による権力支配が四十年以上も永続すれば、幾ら自由や民主を名乗ろうとも悪い風通しの中で支配機構の空気はすえたものになる。そして官僚機構の上層部が供応と共同謀議の慣れでバランス感覚を喪失して放免集団化して、権力の持ち駒として飼いならされてしまうと自浄機能が全く動かなくなる。こうした状況においでは、エリート集団が異常精神の持ち主によって構成されることを人類の歴史は末法時代や世紀末現象として教えているが、現在の日本を支配しているのがこの狂の時代精神である。
 そのことを拙著「アメリカからの日本の本を読む」(文芸春秋刊)の一五六頁から次の頁にかけての部分で「そして今、空洞化する産業界とカジノ化した経済環境の中で狂気と呼ぶしかない(円高)に振り回された日本ではナルシスト集団の饗宴の日々が司祭政治として中曽根時代を特徴づけたのである。国際化への派手な掛け声とは裏腹に孤立化への度合いは強くなり、自閉症的な人びとが好んだエリート主義は自由社会圏における経済競争を激化させたというのが新体制時代顛末である。また、生の様式としての男の友情がひとつの時代精神を構成したこともあり、中曽根首相の私的諮問グループに結集した学者の八割が、倒錯精神によって特徴づけられる人材だったという事実。(中略)さらにこの時期に三島文学に傾倒した外国の文学者たちが大挙して日本にコロニーを作り、友情に結びついた海軍賛歌の静かなブームの中で情念の美学が文学界に浸透した。
 同性愛が時代精神を彩るにしても、このことばは現代最大のタブーである。そうである以上、倒錯精神やナルシズムをキーワードにして世界史や現代史の謎に挑み閉ざされた秘密結社の扉を開く鍵にしたらよい」と書いた。
 現代における最大のタブーに挑んだが故にその頭目から暗殺命令がでるかもしれない、大変きわどい章句を含んだ本書が出版された時、私はちょうど秋の東京を訪れていたが、折しもリクルート事件が燃え上がっていた。そして宮沢叩きがマスコミ界を賑わせていたが、私の読者であるジャーナリストの多くはこの事件の本質が単なる株のバラまきだとは拙著を読み抜いていれば考えなかったはずである。
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続く
新聞会

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